今年5月9日、ロシアの戦勝記念日に演説を行ったプーチン大統領は、ウクライナ侵攻について次のように言及しました。
「ネオナチとの衝突は避けられなかった。NATO(北大西洋条約機構)は最新兵器を定期的に提供し、危険は日増しに高まった。攻撃はやむを得なかった。時宜を得た、唯一の正しい決定だった。」――「祖国防衛は常に神聖」 プーチン大統領演説要旨(『日本経済新聞』電子版2022年5月9日)
日本で様々な情報に接していると、プーチンの発言は「都合のいい噓」「プロパガンダ」に聞こえます。しかし、情報が統制されたロシア国内では事情が異なります。国民はこうした発言を繰り返し耳にすることで、相手国に怒りと憎しみを抱き、強い愛国心を持つようになるのです。
では、私たちがプロパガンダに乗せられないようにするにはどうすればよいのか。そのためには、そこに隠された「噓」がいかなるものかを見極めなければなりません。
そこで今週のPick Up本では、『戦争プロパガンダ10の法則』(アンヌ・モレリ/草思社)をご紹介します。著者は、ベルギーの歴史学者。世論を巧みに操る「戦争プロパガンダ」の基本的な手法を、10項目の「法則」に沿って解説しています。
その法則とは ――
①われわれは戦争をしたくはない
- ②しかし敵側が一方的に戦争を望んだ
- ③敵の指導者は悪魔のような人間だ
- ④われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う
- ⑤われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる
- ⑥敵は卑劣な兵器や戦略を用いている
- ⑦われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大
- ⑧芸術家や知識人も正義の戦いを支持している
- ⑨われわれの大義は神聖なものである
- ⑩この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である
先に紹介したプーチン大統領の発言は、これらの法則に沿ったもの、と言ってもいいかもしれません。
なお、10の法則は、著者のモレリ氏によるものではありません。本書刊行(原著2001年刊)に先立つこと70数年、アーサー・ポンソンビーの著書、『戦時の噓』(1928年刊)で唱えられたものです。
ポンソンビー(1871–1946)は、イギリスの議員を務めた人物です。彼は同国の第一次大戦参戦に異を唱え、政府の外交政策を監視する団体を設立、そこで英政府の戦争プロパガンダを批判し続けました。『戦時の嘘』は、その活動から生み出されたものです。
『戦争プロパガンダ10の法則』は、ポンソンビーの指摘する状況が、紛争が起こるたびに繰り返されている実情を明らかにしています。そして、同書刊行から20年、『戦時の噓』刊行からおよそ100年を経た現在も、戦争やプロパガンダが止むことはありません。
SNSが発達した今日、プロパガンダはますます巧妙に世論を操り、私たちは好むと好まざるとにかかわらず、その影響を受ける状況に置かれています。こうした点において、本書を読む価値は、より一層高まっているといえるでしょう。
(編集部:小村)
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「今週のPick Up本」では、ビジネス書に日々触れている小誌の編集部員が、これまでに要約した書籍の中から「いま改めておすすめしたい本」「再読したい名著」をご紹介します。次回の“Pick Up本”もお楽しみに。
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