2022.10.24

編集部:小村

室町時代のビジネス書? 能役者・世阿弥の芸術論に仕事・人生を学ぶ

室町時代のビジネス書? 能役者・世阿弥の芸術論に仕事・人生を学ぶ

 明日11月1日は「本の日」で知られていますが、「古典の日」でもあります。この記念日は、平成24年(2012)に法律で定められました。

 ところで、11月1日と古典との関わりは、どこにあるのでしょうか。実は今から1014年前、寛弘5年(1008)の同日が、『紫式部日記』によって源氏物語の存在が確認される最古の日付なのです。古典の日は、このことにちなんで制定されました。

 古典の日が近いということで、今週Pick Upする本は、古典をテーマとしたビジネス書です。

 ビジネス書で取り上げられる古典といえば、『論語』や『孫子』、『貞観政要』といった中国古典が多いですが、今回は日本の古典をテーマとした本をご紹介します。


 室町時代の能役者・世阿弥の芸術論を扱った、『世阿弥の言葉 心の糧、創造の糧』(土屋恵一郎 著/岩波書店)です。著者の土屋氏は、法哲学の研究者であるとともに、能楽評論家としても活躍されています。

 1363~1443年の間に生きたと推定されている世阿弥。彼の著作としては、40歳前後に書かれたといわれる『風姿花伝』が有名ですが、他にも60歳前後に書かれた『花鏡』なども存在します。これらの能楽論書は、いずれも「伝書」と呼ばれています。その理由を本書はこう述べています。

 

「伝書」という言葉を使うのは、なにも世阿弥は出版を意図して文章を書いたのではなく、いずれも自分の子供や後継者に、自分の考え方や経験を伝えるために、こうした言葉を書いているからである。ああああああああああああ

 

 世阿弥が後進に伝えるために遺した伝書は、本書の副題にある通り、「心の糧 創造の糧」となる言葉に満ちています。『世阿弥の言葉』は、有名な「初心忘るべからず」をはじめとする世阿弥の珠玉の言葉を選り抜き、ビジネスパーソンに向けて解説したものです。

 私はこの本を読み、自身の「心の糧」とした言葉があります。
 それは「稽古は強かれ、情識は無かれ」
 『TOPPOINT』の要約でも紹介していますが、この言葉について、土屋氏は次のように解説しています。

 

世阿弥の言葉から、究極の1つといえば、「稽古は強かれ、情識は無かれ」(『風姿花伝』)という言葉である。なにしろ、世阿弥自身が、この言葉を後継者への言葉として残しているのだ。
意味はきわめて簡単なことである。稽古も舞台もきびしい態度でつとめて、けっして慢心してはならない。それがこの言葉の意味である。「情識」とは、傲慢とか慢心といった意味である。ああああああああああああああああ

『世阿弥の言葉』


 意味するところは簡単ではありますが、この言葉には深みがあります。現代の私たちにとって、「稽古」は舞台芸術だけに限定されるものではありません。広がりをもってこの言葉を受け止めることで、仕事や人生の知恵として生かすことができます。

 本書において土屋氏は、「稽古」を「シミュレーション」と読み替え、リーダーにとってこの言葉がいかに重要であるかを、次のように説いています。

 

リーダーにとって、この言葉ほど大事なものはない。予想を超えることはいつでも起きる。(中略)リーダーは、時として山より大きな猪が出ることがある、という可能性をいつも考えていなければならない。
危機管理とはそうしたものである。そのための、「稽古」というシミュレーションをつみ、けっして、たいしたことはないと思うことなく、慢心を戒しめていなければならない。

『世阿弥の言葉ああああああああああああああああああああああああああああ』80頁


 私は、「稽古」の意味に「シミュレーション」だけでなく、「仕事に至るまでの準備」も含めることにしました。つまり、リスクを想定するだけでなく、普段からの読書をはじめとした情報収集なども、稽古と考えるようにしたのです。
 そうすることで、「稽古は強かれ、情識は無かれ」という簡潔な言葉を思い出すだけで、いい仕事をする上で必要な一連の作業が十分にできているかというチェックを、折に触れ行えるようになりました。

 世阿弥が活躍したのは、今からおよそ600年前。彼の言葉は、今も昔も、人の成長にとって大事な本質は変わらないことを教えてくれます。
 読書の秋。時には、いにしえの人物の言葉に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。本書から、皆様にとっての「心の糧 創造の糧」となる言葉が見つかれば幸いです。

 なお、『TOPPOINT』の要約では、世阿弥の著作である『風姿花伝』の現代語訳も紹介しています(『風姿花伝』夏川賀央 訳/致知出版社)。ご興味のある方は、こちらも併せてお読みください。

(編集部・小村)

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 「今週のPick Up本」では、ビジネス書に日々触れている小誌の編集部員が、これまでに要約した書籍の中から「いま改めておすすめしたい本」「再読したい名著」をご紹介します。次回の“Pick Up本”もお楽しみに。

2014年9月号掲載

世阿弥の言葉 心の糧、創造の糧

室町時代の能役者、世阿弥。能楽という身体芸術を大成した彼は、言葉に対しても天才だった。「初心忘るべからず」「稽古は強かれ、情識(傲慢)は無かれ」「目前心後(眼は前を見ているが、心は後ろに置いておけ)」…。『風姿花伝』等の伝書から紹介される言葉は、今も色褪せず、心に響く。人生、ビジネスで悩んだ時、世阿弥の言葉は、貴重な示唆を与えてくれる。

著 者:土屋恵一郎 出版社:岩波書店(岩波現代文庫) 発行日:2013年6月
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