2025.9.22

編集部:油屋

支持を失ったリーダーに足りないものとは? 組織の変革を成功に導く「8つの鉄則」

支持を失ったリーダーに足りないものとは? 組織の変革を成功に導く「8つの鉄則」

 2025年9月7日、石破茂首相が記者会見を開き、辞任を表明しました。

 これを受けて本日9月22日、自民党総裁選の候補者が告示され、10月4日には国会議員による投票が行われます(「自民総裁選「22日告示 10月4日投開票」正式決定」/NHK NEWS WEB  2025年9月10日)。

 しかし、誰が次期総裁に選ばれても、その先には厳しい現実が待ち受けています。
 自民党は衆議院・参議院ともに過半数を割り込んでおり、法案成立には野党との協力が不可欠です。また、自民党への国民の信頼は低下を続けており、2025年8月時点での政党支持率は29.7%と、2013年の政権交代以降で最低水準に落ち込んでいます(世論調査「政党支持率推移グラフ」/テレビ朝日HP)。
 さらに、党内の結束も揺らいでいます。石破首相の辞任表明前には“石破降ろし”を狙った臨時総裁選を求める動きが出ていました。候補者の思想や方針の違いから、総裁選後も即座に団結できるかは不透明です。
 新総裁はまさに、厳しい外部環境・支持率低下・組織内の分裂という三重苦に直面した状態からのスタートになるといえるでしょう。

 これは企業に置き換えれば、業界内での地位が低下し、顧客からの支持を失い、社内でも造反の兆しが見え隠れする状況、とでもいえるでしょう。
 では、企業のリーダーがこのような逆境に直面した時、どのように組織を変革し、メンバーをまとめ、リーダーシップを発揮すべきでしょうか?

 今週は、そんな問いについて考える上で役立つ本をPick Upします。リーダーシップ教育の第一人者で、ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授のジョン・P・コッター氏が『ハーバード・ビジネス・レビュー』に寄稿した論文を収録した書、『第2版 リーダーシップ論 人と組織を動かす能力』(ダイヤモンド社 刊)です。

企業変革の8段階

 コッター氏は『第2版 リーダーシップ論』の中で、変革におけるリーダーシップの重要性を繰り返し訴えています。そして、企業が変革を成功させるためには、リーダーが次の8段階のプロセスを踏む必要があると説いています。

 

大きな成果を収める組織変革は、次の8段階の複雑なプロセスを経ている。すなわち、①社員に危機意識を持たせる、②変革を遂行する強力なチームをつくる、③ふさわしいビジョンを定める、④ビジョンを組織全体に周知する、⑤社員がビジョンに向けて行動するようにエンパワーメントを実施する、⑥懐疑的な社員を納得させ、信頼を獲得するために満足のいく短期的な成果を出す、⑦活動に勢いをつけ、さらに難しい課題に取り組む下地をつくる、⑧新しい行動様式を組織の文化として根づかせる ―― である。

(『第2版 リーダーシップ論』14ページ)


 コッター氏は、この8段階のどれか1つでも軽視すれば、十分な成果を上げることはできないと指摘します。さらに、各段階には「落とし穴」があり、優れたリーダーであってもその罠に陥る可能性があると警鐘を鳴らします。

 例えば、第1段階「社員に危機意識を持たせる」では、「変革は緊急課題である」という認識が社員全体に行き渡らないことが最大の落とし穴です。
 一見すると簡単に思えますが、実際には「この段階でつまずいてしまうケースが過半数を占める」と氏は言います。その背景には、次のような理由があります。

 

従来の幸せな職場環境から社員たちを引きずり出すのは、いかに骨が折れるものか、経営陣が十分に認識していなかったケースもあれば、「変革は喫緊の経営課題である」という認識はすでに社員の間に十分浸透していると高をくくっていたケースもある。(中略)こんなケースも多い。経営陣がこのステップのマイナス要素ばかりに目がいってしまい、尻込みし始めたのである。

(『第2版 リーダーシップ論』81ページ)


 だからこそ、コッター氏は大規模な変革の必要性を理解し、リーダーシップに長けた人物を新しいトップに据えることが必要だと説きます。

 ここで、冒頭の自民党総裁選に話を戻しましょう。
 自民党は現在、少数与党としての政権運営や国民からの支持率低下といった課題を抱えています。これらを解決するためには、党の変革は避けては通れません。
 そして、コッター氏の指摘に照らせば、新総裁が変革の必要性をどれだけ認識しているかが今後極めて重要となります。その認識が欠けていれば、早晩組織変革は失敗し、問題は解決されない可能性が高いからです。

「ビジョン」に関する落とし穴

 リーダーが変革を成功に導くためには、組織メンバーや顧客、株主などがイメージしやすい、明確な「ビジョン」を打ち出すことも欠かせません。
 コッター氏はビジョンについて、次のように述べています。

 

ビジョンとは、五カ年計画のような数字が羅列したものではなく、自社が進むべき方向性を明確に指し示したものである。

(『第2版 リーダーシップ論』86~87ページ)

変革を成功させるべく人々を駆り立てるには単純明快なビジョンが必要であり、そのようなビジョンを掲げることができれば、その過程でミスを犯す確率を減らせるはずだ。

(『第2版 リーダーシップ論』101~102ページ)


 ただし、ビジョンを策定し、組織に浸透させる過程にも多くの落とし穴が存在します。その1つが、第3段階「ふさわしいビジョンを定める」場面での、「ビジョンが見えない」という問題です。コッター氏は自身の経験を基に、ビジョンを「見える化」することの重要性を説いています。

 

先日、ある中堅企業のある役員に「あなたはどのようなビジョンを持っているのか」と尋ねたところ、要領を得ない講義を30分も拝聴することになった。そこには、たしかに立派なビジョンの基本要素がないわけではなかったが、奥深く埋もれてしまっていた。
1つの目安を示したい。5分以内でビジョンを他の人に説明できない、あるいは相手から理解と関心を示す反応が得られないのであれば、変革プロセスの第3段階を完了したとはいえないのである。

(『第2版 リーダーシップ論』88~89ページ)


 また、この指摘からは、「5分以内で語れるシンプルさ」と「相手の反応」は、ビジョンの質を測る基準になるということが学べます。もし組織のメンバーが「自社のビジョンがよくわからない」と感じているようであれば、リーダーはこの基準に照らしてビジョンを再検討してみる価値があるでしょう。

 コッター氏は、変革における落とし穴は他にも数多くあるものの、本書で挙げた8段階にひそむ落とし穴は「とりわけ無視できないもの」だと指摘します。逆にいえば、この8段階を着実に踏むことで、どんな逆境にあっても組織は新たな成長を遂げられるのです。
 組織の変革が求められている、あるいは組織をさらに成長させたいと考えているリーダーには、このビジネス書『第2版 リーダーシップ論』をぜひ手に取っていただきたいです。

(編集部・油屋)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2012年6月号掲載

第2版 リーダーシップ論 人と組織を動かす能力

ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授、ジョン・P・コッター氏。このリーダーシップ教育の第一人者が、『ハーバード・ビジネス・レビュー』に寄稿した全論文を収録した書である。優れたマネジャーの権力の獲得・強化法をはじめ、リーダーシップに関する、著者の長年の研究成果が概観できる。1999年に刊行された旧版に、新たに2章分を加えた改訂新訳版。

著 者:ジョン・P・コッター 出版社:ダイヤモンド社 発行日:2012年3月
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