2026年8月号掲載
「もしも」で命は救えるか? 因果推論入門
- 著者
- 出版社
- 発行日2026年5月30日
- 定価1,056円
- ページ数254ページ
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著者紹介
概要
世の中にあふれる、もっともらしい健康情報。これらに惑わされず、本当に信頼できるエビデンスを見極めるカギとなるのが「因果推論」だ。「もしも~していたら」と、原因と結果のつながりを科学的に考えるアプローチで、医療をはじめ、日常生活の意思決定に役立つ。その基本的な考え方を、具体的な研究事例を交えて解説する。
要約
因果推論とは?
「雨の日は腰が痛む。だから雨が腰痛の原因だ」
このように、「原因」と「結果」を安易に結びつけてしまうことは誰にでもある。
こうした因果の思い込みは、多くが「同じタイミングで起こったこと」を「原因と結果(因果)」だと勘違いしているにすぎない。腰痛は気圧の変化と関連があるかもしれないが、雨そのものが原因ではない。
本当の因果関係は、「因果推論」という学問で見極めることができる。これは「原因と結果のつながりを正しく見抜くアプローチ」だ。
因果と相関の違い
よく知られた例として、「アイスクリームの売上が増えると、溺水事故も増える」という統計データがある。この話だけを聞くと、まるでアイスクリームを食べることが溺水事故の原因のように見える。しかし実際には、その裏に「暑い夏」という共通の要因が潜んでいるだけなのだ。
つまり、同じタイミングで起きている出来事(相関)があっても、それが原因と結果(因果)を意味するわけではない。この区別を間違えると、「アイスを規制すれば溺水事故は減る」といった明らかに誤った結論にたどり着いてしまう。
交絡という魔物
アイスを食べることと溺水事故は、一見、因果関係があるように見える。だが実際は、「暑い夏」という共通の要因が背後に潜んでいるだけだ。
この「第三の要因」によって、あたかも直接影響があるかのように見えてしまうのが「交絡」という現象である。この交絡によって因果関係の推定がゆがむことを、「交絡バイアス」と呼ぶ。
医療や社会科学の研究では、この交絡が至るところに潜んでいる。例えば「お酒をよく飲む人は肺がんになりやすい」という研究結果が発表されると、多くの人は「お酒が肺がんを引き起こすのか」と考える。しかしよく考えてみると、お酒をよく飲む人の多くは、同時に喫煙者でもある。
肺がんの本当の原因はタバコであり、飲酒と肺がんの間に見えた関係は「喫煙」という第三の要因による交絡にすぎない可能性もある。
このように交絡が生じるのは、ある出来事Aと結果Bが、実際には共通の第三の要因Cから影響を受けている場合だ。AとBを眺めると「AがBの原因だ」と思えてしまうが、実はCが両方を動かしているだけ。このCを交絡因子と呼ぶ。