2026年4月号掲載
自分のあたりまえを切り崩す文化人類学入門
著者紹介
概要
「日本人の大多数は無宗教」「日本は単一民族国家」…。これらを「当たり前」と思う人は少なくないだろう。だが、本当にそうなのか? 本書は、世の中の暗黙の前提となっている考え方や価値基準を、文化人類学の視点から問い直し、考察する。自分が常識と思っていたことが、実はそうではなかったと気づかせてくれる1冊。
要約
集団と親族
文化人類学は、異文化の儀礼や慣習などを学ぶ学問である。これを学ぶことは自分の生き方を見つめ直すことにもつながる ―― 。
国家がなくても平和に暮らせる人たち
1930年代、英国の人類学者たちは植民地だったアフリカ社会でフィールドワークをしていた。当時のアフリカには多くの王国・首長国があったが、王のいない社会も複数見られた。にもかかわらず、地域の人々は秩序だって生活していた。
その様子を見た人類学者たちは、人々はどうやって秩序を保っているのかという問いに直面した。というのも、当時の西洋社会では、社会が何の制約もない自然の状態にある時、人々は争い合うものだと考えられていたからだ。
しかも、アフリカといえば文明から取り残された野蛮な人々がいる土地だと思われていた。だから王や首長といった国家を統治する者がいない状況で、平穏に暮らしている人々を見た時、人類学者はとても驚いたのである。
「出自」によってつくられる集団の発見
この時、学者たちが見いだしたのが「出自集団」という概念である。「出自」というのは、自分の生まれという意味だ。
人間は誰しも父と母をもち、父方と母方の両方に血縁関係のある人たちがいる。私たちはそのどちらも「親族」と考えるが、世界中の人たちがそう考えているわけではない。例えば、父方の血縁関係のみを重視して、父方の親族だけで集団をつくる場合、人類学では父系出自集団(父系制)という。一方、母系出自集団(母系制)の場合、これが逆転し、母方の親族だけで集団をつくる。
出自は社会的地位や財産、姓の継承の権利に関係している。誰が儀礼に参加できるのか、誰の姓を受け継ぐのか、土地などの財産は誰が相続するのか、様々な権利と義務が出自によって決まる。
例えば父系制の場合、土地や家畜といった財産は男性の系譜に従って相続され、女性には相続されない。一方で相続の権利をもつ者は、祖先の祭祀の義務を負うなどの負担を強いられることもある。このように親族の中での権利と義務の配分が、慣習的に決まっているのである。
人類学者がアフリカ以外の地域で調査したところ、多くの地域で父系や母系の出自集団があることがわかった。国家がなかった時代から、人々は出自に従って集団をつくって生きてきたのだ。
リネージとクラン
こうした出自集団に関連する重要なキーワードがある。「リネージ」と「クラン」だ。
リネージとは、メンバーと祖先との系譜関係が明確にたどれる出自集団を指す。この集団の場合、同じ姓、あるいはそれに相当する呼称を共有しているというだけで、人々は仲間意識をもつ。